ミモザ犬猫クリニック院長です。
今回ご紹介するのは、口腔にできものができた15歳のマルックスちゃんです。
こちらのわんちゃんは、口のできものが痛そうで食欲が落ちてきたとの主訴で来院されました。
こちらの画像が来院時の口の状態です。(飼い主様ご提供)
年齢、形状などから口腔内腫瘍や炎症性疾患などが考えられますが、腫瘍の疑いが強く今後の生命にかかわってくる可能性も大いにあります。
小型犬の口腔内腫瘍は悪性腫瘍の割合が高く、予後が悪い可能性もお話したうえで、治療選択を提案します。
①根治を狙う積極的治療(外科的切除や抗がん剤など)
②症状の緩和を目的とした緩和治療(主にお薬を内服する)
最初は、高齢なので負担の大きな治療は避けたいとのご希望もあり、緩和的治療のみを数日行いました。
しかし、できる限りの治療をしてあげたいとの思いに至り、精査・積極的な治療を行う方針へと変更しました。
細胞診と遺伝子検査の結果から診断された疾患は、「T細胞性リンパ腫」でした。
小型犬の口腔腫瘍の発生割合としては、「メラノーマ」などが多く、外科的治療が中心になります。
しかし、今回は口腔粘膜に腫瘤を形成した「皮膚型リンパ腫」という珍しいケースでした。
この場合は、外科的切除ではなく、抗がん剤投与を中心とした治療を第一に選択します。
抗がん剤治療によって期待される生存期間と合併症・副作用、検査および投与スケジュールと費用などを説明しました。
また、抗がん剤を投与しない場合の選択肢や生存期間なども併せて説明し、今後の治療方針を説明します。
協議の結果、抗がん剤治療を実施する方針となりました。
抗がん剤治療を実施したところ、投与から1週間後には肉眼で観察可能な腫瘍は消失し、「完全寛解」が得られました。
しかし、今回使用した抗がん剤の副作用である「骨髄抑制」「肝機能障害」なども同時に見られました。
2回目の投与直前にはこれらの異常も回復していましたが、毎週血液検査所見をしっかりとチェックして投与量・投与間隔の調整を行います。
犬の皮膚型リンパ腫は、無治療の場合の余命が1-2か月とも言われています。
こちらのわんちゃんは、治療により診断から2か月を非常に元気な状態で乗り越えました。
さらに、がん性悪液質に陥る前に抗がん剤投与を実施でき、完全寛解が得られました。
獣医療は日々進歩しており、現在では多くの治療ガイドラインや予後データにアクセスできるようになりました。
しかし、持病やこれまでの生活、ご家族の価値観も含めて、“その子にとっての最善”を探すことも同じくらい大切だと考えています。
その最善の選択を後押しできるよう、スタッフ一同、日々技術と知識を磨き、適切な提案ができるよう努めてまいります。

