ミモザ犬猫クリニック院長です。
今回は、当院で実際に行った歯周病治療の4例をご紹介します。
同じ「歯石」の治療でも、年齢や体質、既往歴、進行度によって必要となる処置は大きく変わります。
一見して軽く見える場合でも、内部(歯根部=歯の根っこ)では進行していることがあり、
年齢や基礎疾患によって歯科治療に必要な麻酔のリスクも変化します。
今回の4症例を通して、「歯石・歯周病」の治療には大きな差があることをお伝えします。
歯周病の症例紹介
ケース1:雑種犬(3歳) 抜歯不要であった軽症例

主訴:歯石が気になる(口臭・疼痛なし)
歯周病の進行度:軽度の歯石沈着と歯肉炎
●術前評価
術前検査:異常なし
麻酔計画:深度の浅い麻酔で管理可能
●処置内容
基本処置
- 歯石除去(超音波スケーラーを使用し、歯の表面に付着した歯石を丁寧に取り除きます)
- ルートプレーニング(歯と歯ぐきの境目に入り込んだ歯石や汚れを除去します)
- 研磨(処置で生じた微細な傷を磨き、再び汚れが付きにくいよう歯の表面を滑らかに仕上げます)
抜歯処置
- なし
時間:処置35分/麻酔63分
退院:日帰り
術後経過:良好。今後は歯磨きで予防を継続。
➡ 最も望ましいタイミングでの処置。短時間で終了し、歯を残すことができた例。
ケース2:チワワ(8歳) 症状なしでも歯周病は進行していたケース

主訴:皮膚脂肪腫摘出と併せて歯石除去を希望
歯周病の進行度:中等度(症状はなし)
●術前評価
術前検査:大きな異常なし
麻酔計画:深度の浅い麻酔で管理可能
●処置内容
基本処置:歯石除去・ルートプレーニング・研磨
抜歯処置
- 抜歯3本(切削なし)
時間:腫瘤摘出30分 + 歯科処置24分/総麻酔95分
退院:日帰り
術後経過:良好。今後も歯磨きの励行。
➡ 症状がなくても、すでに3本の抜歯が必要な状態。外見では分かりにくい進行は少なくありません。
ケース3:雑種猫(11歳)重度歯周病 + 慢性腎臓病ステージ2

主訴:痛みによる食欲低下、口臭、排膿
既往歴:慢性腎臓病ステージ2
歯周病の進行度:重度
●術前評価
- 術前検査:腎機能の低下(ステージ2)を確認
- 麻酔計画:
- 切削・抜歯による疼痛を適切に抑える
- 長時間の麻酔でも血圧が安定するよう管理する
- 腎血流維持のため術後も輸液を継続し、尿量を確保
●処置内容
基本処置:歯石除去・ルートプレーニング・研磨
抜歯処置
- 抜歯7本(一部切削)
- 化膿した抜歯窩の洗浄
- 歯肉フラップ形成・縫合
時間:処置73分/麻酔90分
退院:点滴管理が必要なため1泊
術後経過:腎数値は良好に推移し、食欲も改善
➡ 慢性腎臓病のある高齢動物では、血圧維持・腎灌流確保が重要で、麻酔リスクが上がります。
ケース4:M.ダックスフンド(16歳) 高齢 + 心疾患 + 感染拡大の重症例
主訴:強い口臭、顎の腫れ、疼痛による食欲低下
既往歴:僧帽弁閉鎖不全症ステージB2
歯周病の進行度:重度
●術前評価
- 術前検査:歯槽骨の感染による炎症反応が強く、術前2週間より抗生剤を投与。その他心臓を除いては正常。
- 麻酔計画:
- 切削・抜歯による疼痛を適切に抑える
- 長時間麻酔や手術操作による血圧変動・心抑制に適切に対処する
- 術後もしばらく心機能と呼吸状態を継続監視
●処置内容
基本処置:歯石除去・ルートプレーニング・研磨
抜歯処置
- 抜歯12本(一部切削)
- 化膿した抜歯窩の洗浄
- 歯肉フラップ形成・縫合
時間:処置76分/麻酔90分
術後:肺水腫を合併し、7日間の入院管理
術後経過:退院後、疼痛などの口の症状は改善し、食欲も増加。術前に比べて体重も増加
➡ 高齢+心疾患+重度感染が重なった高リスク症例。手術のメリットは大きいものの、術後合併症リスクも高く、集中管理が必要となった例。
歯周病は重症化する前に治療を!
歯周病は若い頃から静かに進行します。
初期は目立った症状がないため、口臭や歯石に気づいても受診が先延ばしになりがちです。
今回の4症例のように、若い・軽度の段階では「短時間・無抜歯」の治療で済みますが、高齢で進行した歯周病を治療する際には、
抜歯数・麻酔時間・術後管理などの治療の負担が一気に増えることが分かります。
- ただの口臭ではなく悪臭(腐敗臭)になった
- 食欲が落ちてきた
- 顎が腫れてきた
- 外歯瘻
といった重度の症状が見られる頃には、すでに高齢で、多数の抜歯が必要な段階に進行していることもあります。
結果として、「すぐにでも治療をしたいのに麻酔リスクが…」というジレンマを、飼い主様も私たちも多く経験します。
また、今回ご紹介した重症例は、
- 麻酔リスクよりも治療のメリットが大きい
- 外科治療をしない場合のリスクが非常に大きい
と判断して手術を行い、良い結果が得られたケースです。
しかし実際には、基礎疾患や全身状態の問題で外科治療ができず、内科的管理にとどまる動物も少なくありません。
そのためにも、高齢になる前、軽症のうちに治療、経過観察を始めることが重要です。
早期受診のためにご家庭でできる“気づき”とホームケア
早期発見、受診のためには、日常のちょっとしたサインを拾ってあげることが重要です。特に次のような変化は歯周病のサインになります。
- 口臭が強くなった
- 歯の表面に歯石や汚れが目立つ
- 歯ぐきが赤い、腫れて見える
- 食べこぼす、噛むのをためらっているように見える
- 口をくちゃくちゃする、気にする
こうした“微妙な変化”に気づくためにも、ご家庭でのホームケアが役立ちます。
歯磨きやデンタルガムは「予防」のためだけでなく、日々の変化に早く気づくための重要な観察機会にもなります。
特に歯磨きは、歯ぐきの色・におい・歯の汚れの変化を最も早く発見できる方法です。
「毎日は難しい…」という場合でも、週に数回触るだけでも気づきの精度が上がります。
当院では、その子の性格・口の中の状態・年齢や基礎疾患などに合わせて最適なケア方法をご提案しています。
お口の健康に関して気になる症状があれば、どうぞお気軽に当院にご相談ください。

